夢みるひと

ルーマニア王妃マリア

日本語訳

The DREAMER of DREAMS

King of Romania consort of Ferdinand I Queen Marie

ChatGPT(訳)

福井裕貴 (監訳)

Project Gutenberg

Internet Archive/American Libraries

I

「私は目覚めて見る夢の中でも夢を見、眠りの深い夢の中でもまた夢を見る。」

—フィオナ・マクラウド

ワンダ王の城は驚愕と狼狽に包まれていた。

ワンダ王—その意志の前には多くの者が震え、その微笑み一つを得ようと多くの者が身を低くして待ち望んだ、北方の偉大なる王—その寵愛を受けていた画家が突如として正気を失い、描きかけの絵を完成させることを拒んだのである。

その絵は古い大広間の壁に描かれていた。そこは王宮の盛大な宴がことごとく催される、美しい広間であった。その壁では比類ないエリック・ガンディアンの芸術によって、ひと続きの壁画がまさに生命を吹き込まれようとしていた。

エリックはまだ若く、驚くべき才能をもった青年であった。ある陽光まばゆい朝、王によって見いだされたのである。

エリック・ガンディアンが王宮の中で過ごす日が一日増すごとに、彼の名声もまた高まっていった。そして本人はまるで気づかぬまま、宮廷中の寵児となっていた。

彼のどんな気まぐれも命令同然に扱われ、その陽気で美しい顔は老いも若きもこぞって愛した。

彼を取り巻いて芽生えかけていた嫉妬さえ、その微笑みの甘やかさと、彼の芸術の驚異とを前にして、いつしか自然に消えてしまった。

彼の声は、緑なす森の中で愛を歌う春の鳥たちのさえずりのようであった。太陽が彼の頭上に輝けば、その髪は実りの麦畑を包む夏の夕暮れの霞のように見えた。

その瞳には山上の湖の美しい静けさが眠り、その心には汚れなき魂の素朴な信頼が宿っていた。

…そのエリック・ガンディアンが、黄金の髪のエリックが—妖精のような指をもつエリックが、甘い声のエリックが—正気を失ってしまったのである。

ある朝、目覚めると、誰一人として彼の言うことの意味を理解できなくなっていた。

彼は言った、夢を見たのだ、と。

その夢の中で、二つの瞳を見たのだ、と。

それこそ、自分が絵を完成させるために必要としている瞳なのだ、と。

そして、彼は言い張った。その瞳を見つけるまでは、二度と絵具にも筆にも触れることはできない、と。

ワンダ王は彼を御前へ連れてくるよう命じた。しかしエリックは不機嫌に、その命令に従うことを拒んだ。

初め、ワンダ王は激怒した。

だがやがて、エリックの驚嘆すべき芸術のことを思い出し、自ら寵愛する青年のもとへ出向くことにした。

王の白く美しい宮殿の前、湖へと続く涼やかな大理石の階段にエリックは、腰を下ろしていた。

厳しい問いかけの表情を浮かべ、王冠を戴く王の姿が彼の方へ身をかがめると、エリックは立ち上がった。

しかし、王がどれほど問いかけても、どれほど説得し、褒めそやし、脅し、懇願しても、エリックは悲しげな諦めの身振りを返すばかりだった。

夢の中で自分につきまとったあの瞳を見つけるまでは、二度と筆を手にすることはできない—ただそう繰り返すだけだった。

青年の苦しみと絶望はあまりにも明らかであったため、ワンダ王も、どのような言葉をもってしても、この取り乱した若者の心を動かすことはできないのだと悟った。

王は悲しげにその場を去り、浅い大理石の階段を一段ずつ上っていった。その階段には、王の身につけた豪華な衣装が鮮やかな色彩となって映っていた。

もう一度だけ王は振り返った。

寵愛する青年は、頭を両手で抱え、きらめく湖の向こうを見つめながら座っていた。

王は深いため息をつき、自分の大きな喜びの一つを奪い去った運命そのものと争いたいような気持ちになった。

宮殿の扉までたどり着くと、愛らしい娘の姿が彼を迎えた。

王女は長く裾を引くドレスをたくし上げ、両手には黄金の毬を抱えて、陽の光の中へ出てきたところであった。

王は娘に微笑みかけ、その輝くような若さでもって若い画家を慰めてやるよう、水辺へ行ってみなさいと言った。

ウーナは楽しげに笑うと、黄金の毬を雪のように白い階段の上から転がした。

毬は若者の足元の水へ、ぽちゃんと音を立てて落ちた。

水面には大きな輪が生まれ、それは青い水の上を、次第に大きくなりながらどこまでも広がっていった。

だが、エリックは身じろぎもしなかった。

誰の目にも見えない幻を追っているかのように、ただ遠くを見つめ続けていた。

ウーナは音もなく階段を下りていった。

いつもなら誰よりも陽気に自分と遊んでくれる若者が、いまはあまりにも静まり返っている。その沈黙と静けさに、少女はどこか畏れを覚えていた。

彼のそばまでそっと近づくと、ウーナは隣に腰を下ろした。

そして、じゃれつく子猫のようにぴったりと彼に寄り添い、その顔を下からのぞき込んだ。

少女の柔らかな唇から微笑みが消え、代わって驚きと苦しげな表情が浮かんだ。

ウーナは両腕を若い友の首に回し、花びらのような頬を彼の肩に押し当てると、花盛りの林檎の木の下へ行って、自分と一緒に遊んではくれないかと優しく尋ねた。

エリックは、まるで見知らぬ者を見るように彼女を見た。

その目は、彼女が誰なのかまるで分からぬまま、美しい顔の上をさまよっているようだった。

突然、小さなウーナは恐ろしくなり、身を引いた。

いったい自分の友に何が起こったのだろう。

なぜ、こんなにも変わってしまったのだろう。

なぜ暖かな陽射しの中にいるというのに、自分の身体は震え始め、あたりのすべてから光も色も失われていくように感じるのだろう。

それでももう一度、ウーナは彼に近づいた。

温かな小さな胸は、どうしても彼を助けたかった。

もう一度、仲良しの目に笑みを取り戻したかったのである。

彼女は帯に暗い紅色の薔薇を挿していた。

それを抜き取ると、赤い花びらを一枚ずつむしり、うなだれた彼の頭の上から、足元の白い大理石へと落としていった。

けれどもエリックは顔を上げようともしなかった。

ビロードのような花びらは、大理石の階段の上で、誰にも顧みられぬ小さな色褪せゆく山となっていた。

やがて、ひと吹きの弱い風がそれらを水の中へさらっていった。

水は花びらを運び、はるか遠く、見えなくなるところまで連れ去っていった。

かわいそうな小さなウーナは立ち上がった。

大きな恐怖が彼女を包んでいた。

長い白いスカートをたくし上げると、まるで何者かに追われているかのように、宮殿の中へと逃げ帰っていった。

それでもエリックは、ただそこに座り続けた。

虚空を見つめたまま。

やがて夜が降りてきて、彼の目からすべてのものを塗りつぶしてしまう、その時まで。

II

「私は丘を越え、谷を駆け、名もない土地をさまよってゆく…黄金の夢を追い求めているから。」

ラビンドラナート・タゴール

道は長く、埃っぽく、旅人の足もとの遥か先まで伸びていた。

旅人は小さな袋を背負い、手には丈夫な杖を持っていた。春であったから、木々の小鳥たちは楽しげな歌を歌い、枝々は咲き誇る花の重みでたわんでいた。

旅人は若く、その顔立ちは美しかった。衣服はまだ新しく、首には黄金の鎖をかけていた。それは、ある王から贈られた王家の賜物であった。

彼の足取りは軽く、はずんでおり、瞳には希望の光が宿っていた。ポケットには笛を一本入れていて、ときおり取り出しては甘美な小曲を奏でた。

その小さな旋律は、いつも最後の数音が、答えのない問いかけのように響くのであった。

誰にも彼を引き止めることはできなかった。

黄金の髪のエリック… 妖精のような指をもつエリック… 甘い声のエリック… 狂った画家エリックは、

夢の中に現れた二つの瞳を探し求めて、白く美しい城を後にし、広い世界をさすらう旅へと出たのである。

大広間では、ワンダ王が未完成の壁画を見つめながら立っていた。

それは、鮮やかな色彩に満ち、部屋をぐるりと取り囲む驚くべき絵であった。

これほど完璧な構図、これほど豊かな色彩、これほどの魅力と詩情を生み出せるのは、巨匠の手だけであっただろう。

その壮大な行列が表していたものは、愛の勝利であった。

それはさながら、夢のような婚礼の祝宴であった。

喜びに満ちた若者や乙女たちの大群が、黄金の玉座を目指して進んでいた。

玉座には一人の女が座っていた。

その黄金の衣は、夕陽の中を流れる川のように、歌声をあげる若者や乙女たちの方へと流れ落ちていた。

彼らは頭上で花に満ちた枝を揺らしながら、愛を讃える歌を歌い、愛の玉座の前へ白い薔薇を投げていた。

この若さに満ちた幻影の後ろには、厳しい顔をした戦士たちが、鼻息荒い軍馬にまたがって続いていた。

さらに、真珠の冠を戴いた王妃たちが、黄金の髪の子供たちの手を引いて進んでいた。

その後には楽師たちが続き、さらに乞食の群れ、ぼろをまとった貧しい者たちが続いていた。

誰もが急ぎ、押し合い、流れるようにして、ただ一つの黄金の玉座へと向かっていた。

…しかし、玉座に座る女には、顔がなかった。

画家の妖精のような指は、まさにそこで、突然止まってしまったのである。

彼の傑作全体を完成へと導くはずだった最後の仕上げを目前にして、エリックの筆は彼を裏切った。

夢の中で、彼は自分の求める顔を見た。

彼につきまとう、あの瞳を見た。

けれども、目を覚ました瞬間、その幻は色褪せてしまった。

どれほど意志をこらしても、玉座の女に与えるために必要な、あの瞳の表情を呼び戻すことはできなかった。

それゆえにエリックは—

誰からも愛され、厳格な王にとってさえ喜びそのものであったエリックは――

夢の中のあの瞳を求めるあまり、狂ってしまったのである。

大広間の光が少しずつ薄れていった。

それでもワンダ王は、顔のない玉座の女を見つめたまま立ち続けていた。

自分には何もできないという無力さから、激しい怒りが彼をとらえた。

そして同時に、かつて自分の喜びであり誇りであった、あの金髪の青年を求める強い思いが胸にこみ上げてきた。

小さなウーナが王のそばへ歩み寄り、冷たい小さな手を王の手の中へ滑り込ませると、巻き毛の頭を王の腕に寄せた。

王は深いため息をつきながら娘の方を向いた。

そして二人は連れ立って、花咲く庭へと出ていった。

旅人は、果てしなく続く道をどんどん進んでいった。

王の宮殿は、その背後でますます遠くなっていった。

靴は埃にまみれ、歩みが重くなり始めると、彼はポケットから笛を取り出し、あの、最後が問いかけるような音で終わる悲しい小曲を吹いた。

時刻は真昼であった。

エリックはすでに何マイルも歩いており、今や太陽は激しくその頭上へ照りつけていた。

自分はいったいどこにいるのだろう、と彼は思った。

しかし、それもぼんやりとでしかなかった。

あの夢を見て以来、自分の肩の上にはまるで別人の頭が載せられているような気がしていたからである。

かつてなら整然と並んでいた考えは、もう一つとして彼の心に戻ってはこなかった。

自分がどこへ向かっているのか、彼にはまるで分かっていなかった。

ただ一つ分かっていたのは、

自分の絵に必要なあの顔を見つけるまで—そして何より、夢の中につきまとうあの大きな瞳を見つけるまで—自分は決して休むことができない、ということだけだった。

彼は道端に身を投げ出したまま、じっと座っていた。

目を閉じる。

すると、その瞬間、

探し求めているあの瞳が、彼の前に現れた。

大きく、光をたたえた瞳。

ほかの誰の眼差しにも見たことのない表情を宿した瞳であった。

なんと鮮明なのだろう。

そしてまぶた一つ伏せることなく、なんと揺るぎなく自分を見つめているのだろう。

自分が愚かな探し物をしているのかもしれない、などという考えは、彼の心には少しも浮かばなかった。

疑いもなかった。

恐れもなかった。

偉大な天才は、今や小さな子供のようになっていた。

疑うことを知らず、失敗するという考えさえ持たぬ子供のように。

彼には計画などなかった。

ただ、自分の探しているものを見つけるまで、世界中を旅して回るつもりでいた。

神は空を飛ぶ鳥を養われるように、自分のことも守ってくださるだろう。

そして時間など、問題ではなかった。

彼は汗ばんだ額をぬぐい、あたりを見回した。

すべてがとても静かだった。

空気には夏の花々の甘い香りが満ちていた。

空は青く、木々の葉は一枚として動かなかった。

エリックは一人で微笑み、笛を吹き始めた。

彼は自分で奏でる小さな旋律を聴くのが好きだった。

それは彼自身にとって、とても甘美なものだった。

鳥のように笛を吹いているあいだは、彼は何もかもすっかり忘れてしまった。

彼はいくつもの異なる旋律を吹き始めた。

しかし、そのどれもが最後には、同じ問いかけるような音へとたどり着いた。

自分の小曲がどれも同じ終わり方をすることに、彼自身はまったく気づいていなかった。

エリックにとって、それらは限りなく変化に富んだものだったのである。

そしてその旋律は、たまらないほど甘美だった。

そこには、人間のため息と小さな子供たちの笑い声とが混じり合ったような、いつまでも耳に残る響きがあった。

あるときは、鳥の最も澄んださえずりが鳴り響いた。

かと思えば次には、夜鶯のすすり泣きのような音が聞こえた。

またあるときは、近くで小さな泉が湧き出しているかのように、流れる水の滴る音が、澄みきった水晶のような響きをもってこぼれ落ちた。

エリックは音楽に完全に心を奪われていた。

通りかかった者の中には、足を止めてしばらく聞き入る者も一人ならずいた。

しかしエリックは、まるでその一人一人が昔からの知り合いででもあるかのように、ただうなずき、微笑みかけるだけだった。

やがて彼は立ち上がり、再び歩き始めた。

目の前に伸びる道を、ただまっすぐに進んでいった。

決して道を尋ねようとはしなかった。

ただ一つの大きな目的から目を離さないかぎり、すべてはきっとうまくゆくのだと、穏やかに信じ切っていたのである。

その頃、王の宮殿の前では、ウーナが陽気な蝶のようにあちらこちらへ飛び回り、陽の光の中で黄金の毬を使って遊んでいた。

王女には立派すぎるほど豪華な衣装の裾に、ときおりつまずきながら。

その澄んだ笑い声は、夏の気配をいっぱいに含んだ空気の中を響いていった。

しかし、静かな白い宮殿の中では、ワンダ王が一人座っていた。

そして彼の目には、いつまでも一つの光景が焼きついていた。

黄金の髪をした青年の足が巻き上げる、小さな砂埃。

かつて王の日々の喜びであった青年が、

王その人をも、

王が持つすべての壮麗さをも捨てて、

白髪の王には決して理解することのできない一つの幻影を追って去ってゆく。

その足もとに立ちのぼる、小さな砂埃。

王には、それが次第に、

ますます小さくなり、

さらに小さくなり、

とうとう、もう二度と見えなくなってしまったように思われた。